個人開発Build in PublicPost Mortem

爆速ホームページを畳む — 個人開発プロダクトのPost Mortem

Next.js+MicroCMSのWebサイトテンプレート「爆速ホームページ」を終了する。なぜ売れなかったのか、ISPの検証不足、AI時代の変化、ニッチすぎた市場について正直に振り返る。


爆速ホームページを畳むことにした。

Next.js + MicroCMS + Tailwind CSSで作ったWebサイトテンプレートで、「爆速なサイトを爆速でデプロイ」がキャッチコピーだった。開発者向けに4,900円、ビジネスオーナー向けに99,900円〜の2プランで販売していた。

結論から言うと、ほとんど売れなかった。

この記事は、なぜ失敗したのかを振り返るPost Mortemだ。成功者の「あの失敗があったから今がある」的な美談ではない。ただの敗戦処理の記録。同じようにプロダクトを作っている人が、同じ轍を踏まないための材料になればいいと思う。

爆速ホームページとは何だったか

きっかけは、Marc LouのShipFastを見たことだった。

ShipFastはNext.jsのSaaSボイラープレートで、Marc Lou本人がSNSで大々的に発信して、かなり売れている。それを見て「自分もNext.jsのテンプレートを日本市場向けに作れば売れるんじゃないか」と思った。

つまり、最初からソリューション(テンプレートを売る)が先にあって、課題を後付けした。「ShipFastが売れている → 日本版を作ろう」という順番。「誰のどんな課題を解決するのか」から考えたのではなく、「売れているものを真似しよう」からスタートしてしまった。

これが根本的な間違いだった。

自分がFloat Engineeringの各プロダクトを作る時に使っていたNext.jsのボイラープレートを、そのまま商品化した。

含まれていたもの:

デモサイト、ドキュメントサイトも作った。セットアップ手順、コンポーネントリファレンス、MicroCMSの設定方法まで、ドキュメントもちゃんと用意した。

正直、プロダクトとしての作り込みは悪くなかったと思う。テンプレートを買えば、その日のうちに独自ドメインのWebサイトをVercelにデプロイできる状態にはなっていた。

問題はそこじゃなかった。

敗因1: ISP(Issue-Solution-Persona)の検証不足

これが一番大きい。

「誰の、どんな課題を解決するのか」をちゃんと検証しないまま作ってしまった。

上で書いた通り、ShipFastに触発されて「テンプレートを売る」というソリューションから入った。その後で、「じゃあ誰に売るか、どんな課題を解決するか」を後付けで考えた。Issue→Solution→Personaではなく、Solution→Issue→Personaの順番になっていた。

爆速ホームページのランディングページには、こう書いていた。

自分で開発するには時間がかかりすぎる。プロに頼むと高すぎる(平均82.5万円)。ノーコードツールは表示が遅い。

一見ロジカルに見える。でも、これはソリューション(テンプレート販売)を正当化するために、自分の頭の中で組み立てた仮説だった。実際のユーザーにヒアリングして見つけた課題ではない。

「Next.js + MicroCMSで自社Webサイトを立ち上げたい人」は、そもそもどれくらいいるのか?

冷静に考えると、このペルソナは極めてニッチだ。

つまり、課題が存在しないわけではないが、お金を払ってまで解決したい課題を持つ人が極めて少なかった。テンプレートを買う前に「じゃあ自分で作ろう」か「Wixでいいや」に流れてしまう。

もう1つ致命的だったのは、ビジネスオーナーは「速いサイト」が欲しいわけではなかったということ。

爆速ホームページの売りは、文字通り「爆速」だった。Next.jsのSSG/ISRによる高速なページ表示。Lighthouse100点。Core Web Vitals完全対応。エンジニアの自分にとっては、これは明確な価値に見えた。

でも、実際にWebサイトを発注するビジネスオーナーにとって、表示速度は購買決定の要因にならない。彼らが欲しいのは「ちゃんとしたWebサイト」であって、「速いWebサイト」ではない。「デザインがきれい」「信頼感がある」「お問い合わせが来る」。速度はその先にある指標であって、最初に求めるものではない。

エンジニアが技術的に誇れるポイントと、顧客が価値を感じるポイントがずれていた。技術者の自己満足で訴求ポイントを決めてしまった典型例だと思う。

学び: 「売れているプロダクト」を見てソリューションから入らない。 課題から始める。ShipFastが売れているのは、Marc Louの発信力と英語圏の市場規模があってこそ。同じソリューションを日本市場に持ってきても、課題とペルソナが違えば成立しない。他人の成功を見て「自分もやろう」は危険。まず「誰の、どんな、お金を払ってでも解決したい課題があるか」から始めるべきだった。

敗因2: マーケティングをやりきれなかった

プロダクトを作って、LPを作って、ドキュメントを作って、デモサイトを作って。そこまでやって満足してしまった。

マーケティングらしいマーケティングを、ほぼやっていない。

「いいプロダクトを作れば人が来る」。来ない。これは前の記事でも書いたけど、本当に来ない。

テンプレートビジネスは特にマーケティングが命だ。Gumroadやship-faで売れているテンプレートは、作者がSNSやブログで継続的に発信して認知を作っている。Pieter LevelsのMakebookも、本人のTwitterフォロワー40万人という発信力があってこそ売れている。

プロダクトの品質が50%、マーケティングが50%だとすると、自分は90:10くらいの配分で開発に偏っていた。

学び: 個人開発者にとって、マーケティングは開発と同じくらい重要。 プロダクトを作る時間の半分はマーケティングに使うべきだった。

敗因3: AI時代にWebサイトテンプレートの価値が急落した

爆速ホームページを作り始めた時と、今では環境が全く違う。

2025〜2026年にかけて、AIによるWeb制作が劇的に簡単になった。

4,900円でテンプレートを買わなくても、AIに「Next.jsで企業サイトを作って。MicroCMSと連携して」と伝えれば、似たようなものが数時間で出てくる時代になってしまった。

テンプレートの価値は「ゼロから作る手間を省く」ことだった。でもAIがその手間をほぼゼロにしてしまった。

これは爆速ホームページだけの問題ではなく、Webサイトテンプレート市場全体の構造変化だ。ThemeForestのようなマーケットプレイスでもテンプレートの売上は落ちているという話を聞く。

学び: プロダクトが解決する課題自体が、技術の進化で消滅することがある。 特にAI時代は、「手作業を効率化する」タイプのプロダクトは淘汰されるリスクが高い。

敗因4: ニッチすぎた市場

改めて考えると、「Next.js + MicroCMS + Tailwind CSS + Vercel」という特定の技術スタックに縛られたテンプレートは、ターゲットが狭すぎた。

ターゲットのフィルタリングを図にするとこうなる。

  1. Webサイトが欲しい人 → 多い
  2. そのうち、テンプレートを使いたい人 → それなりにいる
  3. そのうち、Next.jsで作りたい人 → かなり減る
  4. そのうち、MicroCMSを使いたい人 → ほぼいない
  5. そのうち、4,900円払ってもいい人 → ほんの一握り

ステップを重ねるごとにターゲットが絞られていく。最終的に残る人数が少なすぎた。

WordPressのテンプレートなら世界中に市場がある。Shopifyのテーマなら巨大なエコシステムがある。Next.js + MicroCMSのテンプレートは、日本語のヘッドレスCMSを使いたい日本人のNext.js開発者、という極めてニッチなセグメントだった。

学び: ニッチを狙うこと自体は悪くないが、「ニッチ」と「市場が存在しない」は違う。 ターゲットが十分な規模で存在するかを確認してから作るべきだった。

やらなかったこと、やればよかったこと

振り返ると、やるべきだったことはいくつかある。

事前のニーズ検証: LPだけ先に作って、「購入する」ボタンのクリック率を測る。実際にコードを書く前に、需要があるかどうかを確かめられたはず。Smoke testとか、ペイントドアテストとか呼ばれるやつ。これをやらなかったのが致命的。

ターゲットの拡張: MicroCMSに限定せず、Contentful、Notion、mdxなど複数のCMSに対応していれば、ターゲットは広がった。あるいは技術スタックを限定せず、「企業サイトテンプレート」としてもっと広く構えるべきだった。

価格設定の再考: 開発者向け4,900円は安すぎたかもしれない。安いと「無料で代替できるんじゃないか」と思われる。逆に99,900円のビジネスオーナー向けは、「Next.jsのテンプレートに10万円」のイメージが持ちにくい。価格と価値の伝え方がずれていた。

早期の撤退判断: 売れていないとわかった時点で、早く方向転換するか畳むべきだった。「もうちょっとマーケティングすれば」「もうちょっと機能を足せば」と、ずるずる続けてしまった。

畳み方

具体的には以下のように進める。

買ってくれた人がいる以上、急に全部消すのは無責任だと思っている。

この経験をどう活かすか

爆速ホームページの失敗から得た教訓を、今後のプロダクトに適用する。

  1. ISPを先に検証する。 作る前に「お金を払ってでも解決したい課題か」を確かめる。ペイントドアテスト、ユーザーインタビュー、LPでのコンバージョン計測。コードを1行も書かずに需要を測る方法はいくらでもある。
  2. AIで代替されないものを作る。 「手作業を効率化するツール」はAIに食われる。AIでは代替しにくい領域——データの蓄積、コミュニティ、専門的な判断——にフォーカスする。
  3. マーケティングを開発と同時に始める。 プロダクトが完成してからマーケティングを考えるのではなく、開発しながら発信する。Build in publicはその手段でもある。
  4. 市場サイズを冷静に見積もる。 自分が欲しいものと、市場が欲しいものは違う。

1つのプロダクトを畳むのは悔しい。でも6つのうち1つが失敗するのは、むしろ健全だと思っている。全部が成功するはずがない。大事なのは、失敗から学んで次に活かすこと。

爆速ホームページ、お疲れ様でした。


これはFloat Engineeringの「全部見せる」シリーズの記事です。プロダクトの終了も含めて、全部オープンにしていきます。