社内ツール vs SaaS——自社に合うのはどっちか、判断基準を整理する
スプレッドシートの限界を感じたとき、SaaSを導入するか社内ツールを開発するか。コスト、柔軟性、運用の観点から判断基準を整理する。
スプレッドシートが限界を迎えたとき、次の選択肢は大きく2つある。
SaaSを導入するか、社内ツールを開発するか。
kintone、Notion、HubSpot、freee——世の中にはあらゆる業務向けのSaaSがある。一方で、自社の業務フローに合わせた専用ツールを作るという選択肢もある。
どちらが正解かは、会社の状況で変わる。この記事では、判断基準を整理する。
SaaS vs 社内ツール開発——5つの軸で比較する
まず全体像を把握する。
| 比較軸 | SaaS | 社内ツール開発 |
|---|---|---|
| 初期コスト | 低い(月額課金) | 高い(30〜300万円) |
| 柔軟性 | 制限あり(SaaSの仕様に従う) | 自由(業務フローに完全対応) |
| 導入スピード | 速い(即日〜1週間) | 遅い(2週間〜数ヶ月) |
| 保守・運用 | SaaS側が対応 | 自社 or 開発会社が対応 |
| スケーラビリティ | ユーザー数に応じて月額増加 | 初期設計次第でコスト増加は緩やか |
この表だけで判断できるなら苦労しない。大事なのは、自社がどの軸を重視すべきかだ。
SaaSが正解になるケース
以下に当てはまるなら、SaaSの導入を優先すべきだ。
1. 業務フローが一般的
営業管理、経費精算、勤怠管理、顧客対応。これらはどの会社でも似たような流れになる。SaaSはまさに「多くの会社で共通する業務」を効率化するために作られている。自社独自のやり方にこだわりがなければ、SaaSに合わせたほうが早い。
2. チームが小さい(〜20人)
少人数であれば、SaaSの月額費用は安く済む。多くのSaaSは1ユーザーあたり月額1,000〜3,000円。10人なら月1〜3万円。これを社内ツール開発の初期費用と比較すると、SaaSのほうがコストパフォーマンスが高い。
3. すぐに使い始めたい
「来月から使いたい」なら、開発している時間はない。SaaSはアカウントを作ればその日から使える。初期設定やデータ移行を含めても、1〜2週間で本稼働できるものが多い。
4. ITに詳しい人がいない
SaaSは社内にエンジニアがいなくても運用できる。ヘルプセンター、チャットサポート、コミュニティが充実しているものを選べば、自力で問題を解決できることが多い。
SaaSが向いている典型例:
- 営業チーム5人のCRM → HubSpot無料プラン
- 経費精算のデジタル化 → freee or マネーフォワード
- プロジェクト管理 → Notion or Backlog
- 勤怠管理 → KING OF TIME or ジョブカン
社内ツール開発が正解になるケース
一方、以下に当てはまるなら、カスタム開発のほうが長期的に合理的だ。
1. 自社独自のワークフローがある
「受注→製造→出荷→請求」の流れが業界独自。「見積もりの計算ロジックが自社特有」。「承認フローが部門ごとに違う」。こういった業務は、SaaSの標準機能では吸収しきれない。SaaSを無理にカスタマイズするより、業務に合ったツールを作るほうが結果的に安い。
2. 複数のシステムを連携させる必要がある
会計ソフト、ECサイト、在庫管理、配送システム——これらのデータを自動的にやり取りする必要がある場合、SaaS同士をつなぐのは意外と難しい。ZapierやMakeで簡単な連携はできるが、データの変換や条件分岐が入ると破綻しやすい。専用の連携基盤を作ったほうが安定する。
3. ユーザー数が多い(30人以上が日常的に使う)
SaaSの多くはユーザー課金だ。30人以上が使うなら、月額費用は年間で数十万〜100万円を超える。5年間のトータルで考えると、社内ツールを開発したほうがコストが低いケースが出てくる。
4. 競争優位性に直結する業務
その業務の効率が、そのまま利益率やサービス品質に影響するなら、SaaSで「平均点の効率化」をするより、自社に最適化されたツールで差をつけるほうが合理的だ。
社内ツール開発が向いている典型例:
- 製造業の独自の工程管理システム
- 不動産会社の物件・顧客・内見スケジュールの統合管理
- ECの受注→在庫→出荷を自動化する基盤
- 複数拠点の日報・実績を集約するダッシュボード
よくある失敗パターン
SaaSでも社内ツールでも、判断を間違えるとコストが膨らむ。よくある3つの失敗を挙げる。
失敗1: SaaSを過剰にカスタマイズする
kintoneにプラグインを10個入れる。SalesforceのApexコードで独自処理を書く。Notionのデータベースをリレーションだらけにする。
SaaSを「自社仕様」に作り変えようとすると、SaaSの良さ(安い、早い、安定)を全部捨てることになる。カスタマイズに月額5万円払い、それでも「あと一歩が足りない」という状態になったら、最初から作ったほうが安かった、ということは珍しくない。
→ 関連記事:kintoneでは足りなくなったら——カスタム社内ツールという選択肢
失敗2: 社内ツールを過剰設計する
「将来こういう機能も必要になるかもしれない」と、初期段階から大きなシステムを設計してしまう。結果、開発費が300万円を超え、完成まで半年かかり、使い始めたら「そもそも業務フローが変わっていた」となる。
社内ツールは、まず一番困っている部分だけを作るのが鉄則だ。使いながら改善する。
→ 関連記事:「開発会社の見積もりが高すぎる」と感じたときの5つの選択肢
失敗3: トータルコストを計算していない
SaaSは「月額1万円」に見える。社内ツールは「初期費用100万円」に見える。だからSaaSを選ぶ。
でも、SaaSの月額1万円は5年で60万円になる。ユーザーが増えれば月額3万円になり、5年で180万円。そこにプラグインやオプションを足すと200万円を超える。一方、社内ツールは初期費用100万円+年間保守10万円で、5年合計150万円。
月額費用だけを見ると判断を間違える。 3〜5年のトータルコストで比較する必要がある。
判断マトリクス——迷ったときの考え方
以下の質問に答えると、方向性が見える。
Q1. 既存のSaaSで、自社の業務フローの80%以上をカバーできるか? → Yes → SaaSを導入する。残りの20%は運用でカバーする。 → No → Q2へ。
Q2. SaaSのカスタマイズ費用が、年間で50万円を超えているか? → Yes → 社内ツール開発を検討する。 → No → SaaSを使い続ける。カスタマイズを最小限にとどめる。
Q3. その業務は、今後3年で大きく変わる可能性があるか? → Yes → 小さく作って、変化に対応できる社内ツールが向いている。 → No → SaaSでも社内ツールでも、安いほうを選ぶ。
Q4. ユーザー数は今後どう変わるか? → 増える → 社内ツールのほうが長期コストで有利。 → 変わらない → SaaSの月額費用が許容範囲なら、SaaSでいい。
ハイブリッドアプローチという現実解
実際には「SaaSか社内ツールか」の二択ではなく、両方を組み合わせるのが最も多い。
典型的な組み合わせ:
- 会計: freee / マネーフォワード(SaaS) → 専用ツールを作る意味がない
- 顧客管理: 小規模ならHubSpot、要件が複雑なら社内ツール
- 案件・プロジェクト管理: 標準的ならNotion / Backlog、独自ワークフローなら社内ツール
- レポート・ダッシュボード: SaaSのデータを集約する社内ツールを作る
つまり、SaaSでカバーできる業務はSaaSに任せ、SaaSでは対応できない部分だけを社内ツールで補う。これがコストと効果のバランスが最も良い。
→ 関連記事:スプレッドシートの限界を感じたら——社内ツールを「作る」という選択肢 → 関連記事:ノーコードの限界を感じたら——本格開発に移行するタイミングと進め方
費用感の目安
最後に、費用のイメージを整理する。
| アプローチ | 初期費用 | 月額費用(10ユーザー) | 5年間合計 |
|---|---|---|---|
| SaaSのみ | 0〜5万円 | 1〜5万円 | 60〜305万円 |
| SaaS + 部分的に社内ツール | 30〜100万円 | 0.5〜3万円 | 60〜280万円 |
| 社内ツールのみ | 80〜300万円 | 1〜3万円(サーバー・保守) | 140〜480万円 |
※あくまで概算。業務の複雑さ、ユーザー数、連携の数で大きく変わる。
ポイントは、**SaaSの月額費用は「使い続ける限り増え続ける」**ということ。ユーザー数が増え、プランがアップグレードされ、オプションが追加される。一方、社内ツールは初期費用が高いが、月額のランニングコストは低く安定する。
3年後、5年後のコストを試算してから判断する。月額だけで比較しない。
まとめ
- SaaSが向いている: 業務が標準的、チームが小さい、すぐ使いたい
- 社内ツールが向いている: 業務が独自、システム連携が複雑、ユーザー数が多い、競争優位に関わる
- ハイブリッドが現実的: SaaSで80%をカバーし、残りを社内ツールで補う
- 判断基準は「3〜5年のトータルコスト」と「業務フローとのフィット度」
「SaaSか社内ツールか」は、どちらか一方を選ぶ問題ではない。自社の業務の性質とコストのバランスで、最適な組み合わせを決める問題だ。
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